春の欠片が雪に降る



 けれど目はクリクリと大きくて懐っこく、ウェーブがかった柔らかそうな髪の毛が陽の光に照らされて淡い栗色を黄金のように輝かせている。
 
 初対面だと思った自分に疑問を抱いた。
 
(可愛い顔……の、長身……ふわふわした、髪の毛)

 この顔を知っている。

「……は?」

 記憶にあるのは、こんな、朝陽に照らされた姿じゃないけれど。

「……え、なん、なんで?? てかなんで私の名前」

 ……名乗ったかもしれないけれど、さすがに苗字までは伝えていなかったはずだ。
 男性はうろたえたほのりを見てだろうか。
 満足そうに頷く。
 
「関東から異動してくる女の人がいるって聞いて、どんな人やろなって、何人かで、えーっと何やっけ……社内図鑑? 各支店の総務で作ってるやないですか、名簿みたいん」
「あ、ああ……はい」

 突然会社の話になったものだから、ますます意味がわからない。

 「それ、何人かで関東のん、支店長から借りて見たんすよね」

 新年度に各社員の顔写真と今期の目標などを載せた社内誌のことだろう。『ゴーゴー!ラインズソフト』なんていう、社名の入ったかなりだダサめのタイトルロゴの表紙を思い出した。

(いやいやいや!! そんなことより)

 軽く首を振り、ダサめのタイトルロゴで頭の中を支配している場合ではない!と、手を伸ばす。


< 12 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop