春の欠片が雪に降る
「んで、なんか顔色悪かったけど大丈夫ですか?」
すぐそこやし一緒に行きましょう。と、そのまま隣を歩く彼が聞いた。
「いや、緊張してただけ」
あなたに会ったから更にね、と思っていることなど知らない彼は、明るい声で言う。
「マジすか。知ってる奴に会ってちょっとはマシなりました?」
そんなわけあるか逆逆!
と、ほのりは内心思っていたけれど。
他意のなさそうな声と笑顔に、その言葉は喉の奥へと引き返していった。
「……かな」
曖昧な返事の後で、
「あ、僕木下です。木下和希。ちゃんと名乗ってませんでしたよね、すみません」
(木下くんか)
自己紹介のあと彼は少しかしこまったように表情をキリリとさせた。
それもそのはず。今日は何度己の年齢を唱えればいいのか。
(何を隠そうこの私は三十二歳……)
対して隣にいる木下は……どう考えてもフレッシュさを隠せないヤングな気配を醸し出しているのだ。