春の欠片が雪に降る




(なんというか、まあ……)

 瀬古という人間は、案外単純なのかもしれない。
 しかしそれだけでなく、木下は瀬古の扱いが上手らしい。これは見習わなければいけないなと、ほのりはひとつ咳払いをして。

「えーっと、まずどうすればいいのかを考えましょう」

 話を元に戻す。

「支店長、どうして松井さんは突然辞めてしまうことになったんでしょう?」
 
 ほのりの問いに中田は眉を寄せた。

「わかれば苦労しないだろう」

 予想通りの答えだ。
 大きく深く、ため息が出そうになったがこらえる。

「さっきも言いましたけど、何もわからないところに放り込まれて、わからないまま放置されたらミスなんてして当たり前ですよ。だって、わからないんですから」
「仕事は一通り説明しとるに決まってるやろ」

 瀬古が口を挟むが、反応すると長くなってしまうのでひとまず聞き流す。

「そんな状態でミスを責めても何も解決しません。そのミスをどう少なくしていくかです」
「だから何を知ったかぶって……」
「知ったかぶってるんじゃなくて、私はこれまで内勤だったので! 皆さんより事務のことはわかります!」

 なんと、聞き流す作戦は十秒ともたなかった。
 しかし先ほどの木下の言葉の効果もあってか瀬古はその後言い返してくることはなく、ふん、と不服そうに横を向いて黙り込む。

「次に、どれだけ仕事を覚えてもミスはなくなりません。これだけは絶対です。生身の人間である以上は」
「まぁ、それはね、そうだろうね」

 中田が頷く。

「なので、ミスをすぐにカバーできる環境をいつでも整えていたいのが理想です、難しいですが」
「理想語んなや」
「も〜瀬古さん、とりあえず黙って聞いてくださいって」

 止めに入った木下に小さく舌打ちを返し、再び横を向く瀬古。
 黙ってはいられないのか、この男。と、内心呆れながらもほのりは続けた。

「そして、ここは基本的に人員が少なくて全員が現場型ですよね? 中に残される人間は必然的に孤立する。追い込まれれば追い込まれるほど人はまわりを見渡せないし手元ばかりを見ます。悪循環です」
「そうっすね、それは、ほんま反省してます」
「……ここは、木下と佐藤以外はなかなかみんな口下手なとこあるからな」

 中田は何かを思い返すように腕を組み首をひねる。

「可能であるなら内勤者を孤立させないでほしい。いてくれなければ回りません、これは絶対です」

 言いつつ瀬古の方に視線を向けたほのりは彼に問いかける。

「瀬古さん、さっき木下くんが言ってましたけど、ここ残業が多いですか?」
「ああ? 多いもなんもみんな帰れんわ。俺は車やし日付またくで。木下は終電ギリギリくらいか」
「いつまでもダラダラとして残業万歳の環境も、悪循環ですよ。人の集中力なんてそんなにもちません。明日に残していいものを的確に選別するのも仕事です。そりゃ今日死んでも大丈夫って生き方は理想ですが、理想はあくまで理想ですから」

 
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