春の欠片が雪に降る
瀬古が既婚者であるなど、かなりの衝撃。
なんて、脳内は失礼な言葉のオンパレードなのだが、これも、もちろん踏ん張って声にはしない。
ここで再び険悪な雰囲気を醸し出したくはないから。
「や、ははは、知らなかったからちょっとビックリしただけですよ」
「ショック受けんなや、俺は嫁一筋な男や」
「いや、ショックとかは全然ないです」
大きく首を横に振り全否定したほのりを見ることもなく。
鼻歌混じり、ご機嫌な様子で先にフロアに戻って行く瀬古を目で追ったあと、黙ったままの木下を見た。
木下は壁にもたれかかり、長い足を持て余すかのよう、つまらないと言った様子で床を軽く蹴った。
「別に、あんな密着して欲しくて瀬古さんと仲良くなれるようにあれこれ話したんちゃうんやけどなぁ」
「ん?」
「アドバイスなんか、調子乗ってせんかったらよかった」
(……えーっと、これはどうする?)
独り言なのか。
はたまたそうではないのか。
悩んでいると、チラリとこちらに視線が向く。
「結婚してんのも嫌でした? いつのまにそんなことなってんの」
「……え! や、嫌ってか、衝撃受けただけ」
ふーん、と。
言葉数少ない木下は、ほのりに背を向けて瀬古の後に続くいた。
呆然とその背中を見つめる。