春の欠片が雪に降る

また話が飛んだ。
 けれど、聞き逃してはいけない気がする。そう思ったのは、とりとめのないような声が、繋がった先。それがほのりにとって大切なものになるような予感がするから。

「でも、吉川さんと同じやないんですよ」
「同じじゃない?」
「うん。それ、ラッキーって思ってもたからね」

 意味がわからずに、木下を見続ける。
 浮気をされてラッキーとは、何やら新しいではないか。
 そんな考えが顔に出ていたのだろうか。
 木下は少し眉を下げた。

「ゆうたでしょ、僕、その場しのぎでやってきてるって。もう無理やなってわかってんのに、連れも共通の奴らばっかで面倒やなって」

「そんな時、浮気されて、思ったんすよ」

 ふぅ、と。
 大きく息を吐いて、木下はまるで不安な心を落ち着けるかのように足の上で己の手を握りしめる。

「……ラッキーやな、って。別れ話して、揉めることも傷つけた顔見ることもせぇへんで終わらせれるやんって思ったんすよ」

「最悪やろ?」と、自分を嘲笑うかのように乾いた笑い声が響く。

「もう、恋愛なんて二度とごめんやわって思いました。ここまで自分がくだらん人間やて思い知らされるようなこと、もういらんって」

「くだらないって……」

 そんなことないよ、とは言えない。
 ほのりはその感情を知らない。だからきっと何を言ってもふわふわと形のないものになってしまいそうで。
 しかし、何も言えないほのりとはまるで逆。
 木下は吐き出すように、その声を続けた。

「中学の頃から十年付き合ってたんですよ。あっけないもんやと思いません? ほんま最悪やし、最低やし、僕」

 静かな声には明らかな怒りが混ざっていて、彼が口にした十年という月日がとても重い。

「ずっと一緒におった、めっちゃ好きやった奴のこと、めんどいなって思った瞬間マジでビビりました。これまでの自分全部否定してるみたいやったから」

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