春の欠片が雪に降る

「松井さんのこと、瀬古さんに聞いたんですよね?」
「え、あ、松井さんの……。そうだね、チラッと」

 よくわからないが、好きと言われた直後には元事務員である松井が話題に上がった。

「そんな感じで、僕ってその場しのぎで、今日この場が僕にとってうまいことまわってればそれでええやんって奴なんですよ」
「え?」
「相手の為に、声を上げてまで出来上がったもんを変えようとか意見しようとか、できへんから中途半端なんです」

 仕事の話になったのだろうか?
 ほのりは、木下が何を伝えてくれようとしているのかを読み取れずただその声に耳を傾けることしかできない。

「だから、吉川さんってかっこええなって単純に尊敬するし」
「いや、別に……」
「かと思ったら、僕がちょっとグイグイ行くだけで真っ赤になって可愛いし」
「……ちょっと、ちょっと待って木下くん」

 情報量が多すぎて整理ができない。
 何かを言葉にしたいが形にはならず、パクパクと口を動かすだけのほのりを見て、目を細めた木下は、どことなく切なそう。

「奥さん大好きな瀬古さんにまで妬くし、僕いよいよこれアカンやつやわって気付いたわけっすよ」
「アカンやつ……」

(って、なんだ?)

繰り返したほのりに、木下は小さく頷く。

「やから、まあ頭冷やそうやって、頑張ってみたんやけどそれこそアカンかったんで」

 ゆっくりと、息を吸い込んだ木下の手が、濡れたままのほのりの髪に触れる。

「僕もね、浮気されたんっすよ、前付き合ってた奴に」

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