竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜


「おい」
「ひっ!」


 殺されないよう考えていたせいで、竜王の顔が至近距離にあるのにまったく気が付かなかった。私が間抜けな悲鳴を出し一歩後ろに下がるも、手遅れだったようだ。すぐに背後から「竜王様があんなに近くに」「信じられないわ、やはりあの女、術師なのでは」という、女性の苛立った言葉が聞こえてきた。


(ひええ! これ以上近づかないで! あなたに殺される前に、あの人たちに殺されるのが早そうだから!)


 それでもそんな周りの状況も気にならない様子で、竜王は首をかしげ、私にもっと顔を近づけてくる。


「おまえ、何か香水をつけているのか? 妙に甘い匂いがするな」
「え、え? 香水ですか? 何もつけてないです!」


 わりと匂いに敏感なほうなので、香水はおろか柔軟剤も使っていない。洗剤も無香料のものだ。変な匂いと言われなかったのは良いけど、私の命のために離れてほしい。しかしそんな私の気持ちなど考えてくれるわけはなく、竜王は何かに気がついたような顔で私を見ている。
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