竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜


「ふむ。おまえが何か話すと、そこから香ってくるな。口を開けてみろ」
「え! 口ですか! わ、わかりました!」


 死にたくない私は、完璧に竜王のイエスマンとなり、サッと口を開けた。もう床に落ちたものですら、食べろと言われたら口にする勢いだ。すると私の口の中を覗き込んだ竜王は、合点がいったという顔でにっこりほほ笑みうなずいた。


「なるほど、血か。おまえの血の匂いが甘いのだな。迷い人とは本当におもしろい」


(血? あっ! さっき舌を噛んで切れちゃったから、それかな? もう血は止まってるのに、鼻が良いんだ。それにしても傷のことを思い出したら、痛くなってきちゃった……)


 竜王は原因が判明し満足したようで、スッキリした顔をしている。ならもう口を閉じてもいいかな? そう思ってゆっくり唇を閉じようとした時だった。


「待て。その傷を治しておこう」
「え? ……んん!」


 傷を治す? そう頭によぎるやいなや、私の口内に熱い何かが入ってきた。そして舌先が何か膜のようなもので包まれたかと思うと、噛んでできた傷の痛みが、すうっと消えていくのがわかった。


(傷が……治った?)


 いや、そんなことより、竜王の顔が近い。近いというより私の顔に、ピッタリくっついている。だって彼のまつげが見える近さに顔があるもの。ということはこれって、これって……!


(私、竜王にキスされてる!)


 そう気づいた時には、もう竜王の顔は離れていた。自分の唇をぺろりと舐め、誇らしそうに笑って私を見ていた。
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