竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜

 しかも今日の竜王様の服は、白い軍服だ。まるで二人の結婚式に迷い込んだようで、胸の奥がヒリヒリと痛い。逃げ出したいのに、足の先までひんやりとして、凍ってしまったみたいだ。動けない。


「おお! 迷い人様じゃないですか! どうぞ、こちらへ。迷い人様からもお二人に、お祝いの言葉をいただけますか? アビゲイルと竜王様がご結婚されたら、すぐにでも懐妊いたしますから、迷い人様もお忙しくなりますな」


 いつの間にか私の後ろに、リプソン侯爵が立っていた。私の背中を押し「さあ、こちらへ」と、二人のもとへ行かせようとしている。


(これはいったい、なんなの? 竜王様はなんで私を呼んだの?)


 私は助けてほしい一心で、すがるように竜王様を見つめた。それなのに。


「リコ、こちらへ」
「えっ?」


 竜王様は私に手を差し出している。まさか、そっちに行って「乳母」として挨拶をしろと言っているのだろうか? 背中に当たる侯爵の手が、じわりじわりと私を押し出そうとし、足が一歩前に動いた。
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