婚約破棄寸前の令嬢は、死んだ後に呼び戻される
「わざわざ王女様の前で言わなくてもいいじゃないの……」


 ポロリと最後の一粒がこぼれ落ちた。
 それでもなんとか暗い気持ちを振り払うように、勢いをつけてベッドから降りる。


「よし! 決めたわ! エドに魔術トラップを仕掛けましょう!」


 どうせ明日には王家から婚約破棄の連絡が来て、親同士で手続きをするはずだわ。そうしたら伯爵令嬢の私なんて、王子のエドと2人で話す機会はもう無いと思う。


 それならいっそ最後に魔術トラップが入った恨みつらみを書いた手紙を、お父様から渡してもらいましょう! 今までの感謝の手紙とでも言えば、さすがに受け取ってくれるでしょうし。


「だって隣国の美しい王女との結婚なんて、ものすごく祝福されるわ! 私なんて明日から社交界の噂のまとなのに! エドだけずるい!」


 婚約解消後の社交界での居心地の悪さを考えると、すでに憂鬱で思わず頭を抱えてしまう。そんな明日からの自分を考えると、ちょっとくらい驚かしたって良いのでは? という気がしてくる。


「そうと決めたら、早く取り掛からなきゃね!」


 早速引き出しから一番上質なレターセットを取り出し、エドへの恨み言を書き始める。いつもなら倍以上はかかるのに、今回はあっという間に手紙を書き終えてしまった。


「人って恨み言はこんなに早く書けるものなのね」


 封筒に入れ最後に「エドワード様へ」と書き、封をする。最後の手紙だと思うと胸がチクリと痛むけど、ブンブンと頭を振って気持ちを入れ替え魔法陣に取り掛かることにした。


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