若旦那様の憂鬱
そうこうしてるうちに車は会場の地下駐車場に到着した。

「さて、今日も頑張りますか。」
そう言って、柊生は車を降りいつものように助手席に回って、花を車から下ろす。

会場に向かう道中で、

「花、今日のスカート、体のラインが気になって、花のお尻ばっか見ちゃうんだけど…。」
 
爽やかな若旦那様の顔で、突然セクハラまがいの発言をする。柊生の口を花は慌てて両手で塞ぐ。

「柊君、ここ外だから!変な事言わないで。」
小声で花は咎める。

今日の花は、スーツでと指定もあった為、グレーのタイトスカートのリクルートスーツを着てきた。

柊生は花の手をペロッと舐めて、
「次は、俺の為にもフレアスカートにして。」
そう言って涼しい顔で歩き出す。

花は舐められた手から一気に真っ赤になりながら、柊生の後ろに隠れて慌てて着いて行く。

エントランスに来ると数人のスタッフとすれ違い、挨拶しながら素通りする。

柊生が商店街の会長に花を許嫁で、婚約者だと紹介した日から、何となく外を歩くと好奇な目で見られ、
視線が痛い。

柊生は気にせずいつも通りでいろ、と言うけれど……。
他人の好奇な目に慣れていない花にとっては、気になって仕方が無い。しかも2人で歩いているだけで目立ってしまってソワソワする。

2、3歩後ろを歩く花を、不意に柊生が立ち止まり振り返る。

慌てて近付き、
「どうしたの?」
と、花は問いかける。

「階段だから先歩いて。」
そう言って、花を先に歩かす。

「私そんな、階段なんかで転ばないよ。」
ムッと怒って小声で言う。

「それを心配してるんじゃない。」
柊生も小声でそう答える。

じゃあ、何を心配してるんだろうと、花は首を傾げながら階段を登る。

「階段下からパンツ見られたら嫌だろ?」
小声で柊生がそう言うから、びっくりして花は振り返る。

「そ、そんな事思ってるのは柊君ぐらいだよ。」
信じられないと言う顔で柊生を見上げる。

「世の中の成人男性の8割はそう思ってる筈だ。」
何の統計⁉︎
花はドギマギしながらも、これ以上は言わない方が身の為だと思い、階段を速足で上りきる。

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