イケメンエリート、最後の独身


 あまり長居するといい事はない。特にこんな微妙な状況の時は。
 勢いよく立ち上がったせいでまた頭痛がするけれど、謙人はそのまま玄関のドアへ向かった。
 慌てて付いてくる萌絵を後ろに感じながら。

「萌絵ちゃん、昨夜は泊めてくれて本当にありがとう。
 今度は俺にご馳走させてね。美味しい物を食べに行こう」

 謙人は萌絵の顔を見ずに外へ出た。
 そして、コンクリートがむき出しの非常階段へ向かう。軽快に階段を下りたかったけれど、頭の痛みなのか胸の痛みなのか訳の分からない痛みが全身を駆け巡る。

 謙人はよろよろの状態でマンションの外へ出た。
 外は快晴だった。太陽の光が眩しくて仕方がない。そのせいなのか、謙人の目に涙が溢れてきた。
 やばい… これがいわゆる恋愛の沼の中というものか…
 謙人の心の中はどんよりとした曇り空のようだった。
 今、目の前に広がる青空のように心が晴れる日がやって来るのか、想像もつかない。
 謙人はすぐにタクシーを手配する。
 もう、このことだまマンションに来る事もないだろう…
 そんな事を考えながら後ろを振り返る事もせず、謙人はタクシーに乗り込んだ。


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