太陽と月の恋
およそ55分程度の無料体験が一通り終わる。
「こんな感じですね。もし入会いただけたら、本日作ったメニューに沿ってやってもらえれば」
そう言いながら、プリンターから吐き出されたばかりの「木谷様オリジナルメニュー」と印字された用紙を私に見せる。
そこには私の体制分分析結果と、理想的な数値、目安となるトレーニングメニューが機械的な文字でA4サイズ用紙2枚に連なって示されていた。
「これやればキレイになれます?」
私はぼんやりと口にすると、向かい合う河辺さんと目が合う。
河辺さんは私から目を逸らすことなく、口を開いた。
「なれます」
その口はギュッと結ばれたように力を含んで閉じる。
もうすぐ予定の60分。
私はそっと用紙を受け取る。
が、河辺さんは用紙から手を離さず、そこでカチッと私たちの動きが止まった。
また河辺さんの目を見ると、その口がゆっくりと開いた。
「っていうか、もう既にキレイじゃないすか」
そう言った後、さっきまで固い表情だった河辺さんの顔がクシャッと笑顔いっぱいになる。
「え、キレイ?」
「キレイっすよ、十分キレイです!でも!もっとキレイになりましょう!」
彼はまた白い歯を見せる。
営業文句、リップサービス、お世辞、社交辞令、何でもいい。
嘘だっていい。
それでも昨日振られたばかりの私の心には隅々まで沁み渡った。
何故だろう。
こんな初めてのジムで、初めて会った人間の前で。
私の目の縁から涙が溢れそうになる。
もっとキレイになる。
私は入会を決めた。
「こんな感じですね。もし入会いただけたら、本日作ったメニューに沿ってやってもらえれば」
そう言いながら、プリンターから吐き出されたばかりの「木谷様オリジナルメニュー」と印字された用紙を私に見せる。
そこには私の体制分分析結果と、理想的な数値、目安となるトレーニングメニューが機械的な文字でA4サイズ用紙2枚に連なって示されていた。
「これやればキレイになれます?」
私はぼんやりと口にすると、向かい合う河辺さんと目が合う。
河辺さんは私から目を逸らすことなく、口を開いた。
「なれます」
その口はギュッと結ばれたように力を含んで閉じる。
もうすぐ予定の60分。
私はそっと用紙を受け取る。
が、河辺さんは用紙から手を離さず、そこでカチッと私たちの動きが止まった。
また河辺さんの目を見ると、その口がゆっくりと開いた。
「っていうか、もう既にキレイじゃないすか」
そう言った後、さっきまで固い表情だった河辺さんの顔がクシャッと笑顔いっぱいになる。
「え、キレイ?」
「キレイっすよ、十分キレイです!でも!もっとキレイになりましょう!」
彼はまた白い歯を見せる。
営業文句、リップサービス、お世辞、社交辞令、何でもいい。
嘘だっていい。
それでも昨日振られたばかりの私の心には隅々まで沁み渡った。
何故だろう。
こんな初めてのジムで、初めて会った人間の前で。
私の目の縁から涙が溢れそうになる。
もっとキレイになる。
私は入会を決めた。