太陽と月の恋
「あっ」
「あっ」
「あっ」

見事に大人3人の声が重なり一瞬場が固まったけど、次々と人が流れてくるので流れを止めるわけにもいかず、何故かギクシャクしながら親子2人を先に譲り、続いて私たちがエスカレーターに乗る。

剛くんはそっと私の手を離した。

なぜかシンと固まったような時間。

私たちは静かに3階に着くと、なぜか前の親子も一緒に邪魔にならない場所に移動し、そこで固まった。

お父さんと思われるメガネをかけた小太りのおじさんが口を開く。

「剛くん、どうなの、調子」
「お陰様で去年こっち戻ってきて」
「そうなんだ、良かったねえ」
「すみません、本当にご迷惑お掛けしました」

おじさんに向かって剛くんは深々と頭を下げた。
その瞬間、私はなぜかその親子、おじさんとも娘さんともバッチリと目が合う。

娘さんは少し派手で顔が小さくて、その代わりに目が大きくてまつげがこの距離からでもクルンと上を向いていて、鼻と口が小さくて、色が白くて、手足細くて、ちょっと小柄、髪は綺麗で、女の私でも一瞬見惚れてしまうほどの美人。
年明けの家電量販店が似合わない。

なぜかザワザワと胸騒ぎがする。

「パパ、もう行こう」とその美人な娘さんがエスカレーターの方へ誘導すると、おじさんも「ああ、じゃあ」と剛くんに一言言って2人は4階へと消えていった。

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