太陽と月の恋
遊びのような格好で更衣室を後にし受付前に戻ると、先ほどのお姉さんの代わりに骨格のしっかりした男の人が立っていた。

私はウロウロしながら言われた通り受付カウンターの前に立つと、突然お兄さんが「本日体験の木谷さんですか」と声を掛けてきた。

私だ。

「はい」と答えると、お兄さんは気持ちいいくらいやけに爽やかな笑顔を浮かべる。

「初めまして、トレーナーの河辺です」

浅く日に焼け、歯が白く光る。
彫りの深い顔立ち。
絵に描いたようなトレーナーだ。

おそらく動き回ってるだろうに、パーマがかったウルフカットは崩れていない。

「今日はまずは筋肉量脂肪量を測って、オリジナルプランを作成して、それに基づいて一通りやってみましょう。大体60分を予定してますけどお時間大丈夫ですかね」

ウルフカットの彼はたまに私の方を振り返りながらトレーニングルームへと歩を進める。

「大丈夫です」

私の答えに、彼は軽く頷き笑う。

こういう体育会系の人間とは今まで縁がなかったなあと気付いた。
学年にはいたのかもしれないけど、一言も会話したことがないまま大人になってしまった。

女子大に進み、気付けば女性ばかりの職場。
周りにいる男性はおじさんばかり。
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