跡取りドクターの長い恋煩い
 「……大丈夫、ちょっと驚いただけ」

 「え、笑美里……すまない……俺、ストーカーだよな」

 床に手をついて座ったままの宗司くんは、すっかりしょげてしまった大型犬のようだ。

私はその隣に行き、目線が同じになるよう座ることにした。

 「……うん、そうだね。ちょっと驚いた」

 確かにストーカーだ。
 
 「でも、わざわざ休みごとに会いに来てくれていたのなら、声をかけてくれたら良かったのにって思う」

 「え?」

 「あれだけ毎週来ていたのならわかったでしょう? 私がいつも一人だったこと。
平日は友達と一緒にお茶をすることもあったわ。
でもあの写真は全て自習中のものだったから土日の写真よね?
 私、いつも一人だったはず。
……宗司くんが話しかけてくれたら嬉しかったのにって思うよ?」

 「笑美里……」

 そんな事は思いつきもしなかったのか、宗司くんは衝撃を受けているようだった。

 「笑美里はすごく真面目に勉強していて、俺は邪魔をしてはいけないと思ってた……」

 「うん……」

 そうなんだろうな、と思った。
 もう今はこの人の考えそうなことがわかる。でも……。
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