跡取りドクターの長い恋煩い
 この部屋で特筆すべきは、部屋のど真ん中に置かれた明るいアクアブルーのヤギボーMAXだ。クッキーモンスターみたいですっごく可愛い。

 いいなぁー。私もアレ欲しい。
 ソファセットよりずっと自由でいいわ!
 一人暮らしって感じがする。後で座らせてもらおう。

「さ、食べよう!
 明日も早いからな。食べてさっさと寝るぞ」

「う、うん。いただきます!」

「どうぞ召し上がれ」

「……う、わー!  美味しい!」

「そうか?」

 昨日の朝ごはんと同じで、見た目からして美味しいに決まっているのに、ホッとしたように宗司くんは微笑む。

「……宗司くん、宗司くんはどうしてこんなにお料理ができるの?」

「え!  それは……」

 あれ?  これは聞いちゃいけなかったのかしら。宗司くんが目に見えて慌てだした。

「その……引かないって約束できるか?」

「う、うん……どうしたの?」

 何を聞かされるんだろう。

「その……大学の時に…………に入ってた」

「え?  ごめん、ちょっと聞こえなかった」

「だから…………男子料理部に入ってた」

「へ?」

 男子料理部⁉

「その……料理が出来るようになりたくて、ふらっと覗きに行ったらなかなか居心地のいいクラブでな。
 純粋に料理好きだったり、料理を習いたくても機会がなかった野郎ばかりが集まっていて。男ばかりだから気楽なんだよ。
 料理の基礎から創作料理まで、ちゃんと講師を招いて学べる環境だったし部員数も結構居たんだぞ」

「……」
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