跡取りドクターの長い恋煩い
 「うわぁ!  美味しそう……」

「悪いな、こんなので。
 あまり時間をかけたら笑美里が食事も摂らずに寝てしまうんじゃないかと思って」

 図星だ。半分寝かけていたわ。
妄想で赤い唇を思い浮かべながら。
 
 それにしても『こんなの』?
 豚肉と玉ねぎがいい具合にタレに絡まって、生姜のいい香りがしている。
 その横にはこんもりとした千切りキャベツ。タレが少しキャベツにかかっているところが堪らない。

 完璧なフォルムの生姜焼きを『こんなの』ですって?

 添えられたにコーンとミニトマトとブロッコリーのコンソメスープも、彩り鮮やかでこんなに美味しそうなのに!

「はい、これ笑美里のな」

 そう言って私の前に置かれたのはピンクのお茶碗。宗司くんの前には濃紺のお茶碗が置かれている。

「これ……」

 どう見ても夫婦茶碗なんだけど。
私が使っていいのかしら?

 インテリアコーディネーターにお願いしたと言っていた部屋は、とても素敵だった。全体にブラウン系だけど明るい色調なので1LDKの部屋を広く見せている。

 基本的に造りは同じ。部屋を広く使うために作り付けのデスクと本棚がある。
もちろんこの本棚には大学時代に使っていた教科書やその他医学書がびっしり。これもきっとどこの部屋でも同じだと思う。
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