独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
お盆休みが来週に迫り、どことなく課内も夏休みに向けて浮足立っている。

総務課では直属の上司のみが私の事情を知っている。

親しい同僚には既婚者で妊娠中、とざっくり伝え、相変わらず旧姓を使用して勤務している。

いつか公表した際、前勤務先のような事態にならないかと今から戦々恐々としている。

業務上秘書課と関りも多く、役員フロアに足を踏み入れる機会も少なからずある。

けれどいまだ、社内で瑛さんにばったり会ったことはない。



いつも通りの業務をこなした定時間際、秘書課から電話がかかってきた。

応接室に筆記用具の忘れ物があるらしく、保管を頼まれた。

忘れ物の持ち主は社内の人間で、すでに連絡がついているらしい。

上司にその旨を伝え、引き取りに向かった。


秘書課に到着すると、なぜか慌ただしい雰囲気が漂っていた。



「社長に連絡は?」

 

「副社長が必要ないと……」



「とにかくこの件は内密にね」



「あの、総務課の新保ですが……」



入り口付近でおずおずと声をかけると、ひとりの女性がやってきた。

荷物を受け取ると困ったように謝罪された。



「ごめんなさいね。届けに行けばよかったんだけど、手が離せなくて」



「いえ、大丈夫です。お忙しそうですね」



「ええ……思ってもみない方が突如来社されて」



そう言って、女性は秘書課の斜め向かいにある副社長室を見つめる。

ちなみにこの秘書課で私の事情を知っているのは、秘書室長の三橋さんのみだ。
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