独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「――彩萌?」



「えっ? あ、芙美」



「具合悪いの? ぼうっとしているし、顔も赤いけど」



頭を上げると、親友が日替わり定食を手に立っていた。

ゆっくりと私の向かいの席に腰を下ろす。



「食欲、ないの?」



慌てて首を横に振る。

昼休みの食堂で、淫らな出来事を思い出していた自分が恥ずかしい。



「マリッジブルー?」



声を潜めて親友が再び問いかける。

私の結婚については、社内のごく一部にしか知らされていない。



「ううん、最近……結婚式の準備とかで忙しいせいかな」



小声で答える。

毎夜招待客の名簿を見て、名前と顔を覚えている。

結婚式は里帆さんの一件もあり、できるだけ内輪で行うらしいが、それでも相当な数だった。

ほぼ手つかず状態のきつねうどんに視線を落とす。

百貨店に出かけた日からとくに、自分の気持ちが、考えが、よくわからない。

ただ、このままではいけないと思い、初めて自ら瑛さんの母親に連絡をした。

万が一の事態のためと、以前瑛さんは自身の両親の連絡先を教えてくれていたのだ。



『彩萌さん? どうしたの、なにかあった?』



突然の電話に、義母となる人は焦っているようだった。



『いえ、あの、急なうえ、電話での勝手なお願いで申し訳ないのですが……私にしきたりや決まり事、マナーなどについて教えていただけませんか?』



『え?』



戸惑う瑛さんの母に、嫁ぐ身でありながら梁瀬家の知識がほぼない旨を正直に伝えた。

夫となる人の生家について、きちん知りたい。

なにより恥をかかせたくないし、彼を含む親族の方々に、少しは認められたい。

時芝母娘と先日会った日から、ずっと考えていた。
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