婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 そう言われては返す言葉もない。話の内容を変えたくて、ここに来た時から気になっていたことを解消することにした。

「気になることとは?」
「先に私がコートデール公爵様の御身に触れる許可をいただけますか?」
「それはかまわんが、いったいなにを……?」

 私はゆっくりとコートデール公爵に近づき治癒魔法を使った。淡くて白い光がコートデール公爵様を包み込んで、思った通り治癒の手応えを感じる。コートデール公爵様はみるみる穏やかな顔になっていき、眉間の深いシワも消え去った。

「これは……! 痛みがない、古傷が治っている。なぜわかったのだ?」
「お体を動かすたびに動きが止まっていて、おつらくて動けないのではと思ったのです。深い眉間のシワも痛みからくるものかと。コートデール公爵のご活躍を知らない者はおりませんから、もしや過去に怪我をして治りきっていないのではないかと思ったのです」

 最初にコートデール公爵様を見て感じたことだった。数年前に元騎士団長で退団したばかりなら、まだまだ身体は動くはずなのに、フィル様が部屋に入っても椅子から立ち上がろうともしていなかった。

 忠誠心が強い騎士であるのに違和感を感じて、身体を動かそうとするたびに険しい表情になるのを見て確信に変わった。

「そうか……他の治癒士では治せなかったのに、こんなに穏やかな気分になったのは六年ぶりだ。しかも森の神獣も手懐けた上に神竜までも操っているとは。ラティシア様こそ未来の王妃に相応しい」
「——はい?」

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