婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

「で、そこの犬。君はなんなの? 雄のくせにラティのそばにいるなら、僕と主従契約は必須だよ」

 幻獣が威嚇してきたけれどサラッと正面から受け止めて、さらに僕の魔力を幻獣に向けて解放する。僕の下僕にならないなら、処分すると殺気を込めた。
 犬はビクッと身体を震わせ、さっきまで立ち上がっていた尻尾は股の間に挟まっている。

《わ、わかった! おおお、お前には勝てねえから、主従契約をむむ、結んでやる!!》
「うん、いい子だ」

 僕は殺気を消して穏やかに微笑み、名を聞いて主従契約を結ぶ。そうして犬は幻獣から神獣フェンリルへと進化を遂げた。主従契約を結んだ証の金色の光が収まると、フィンリルの瞳は僕と同じ青い瞳になっていた。
 その流れを見ていたラティが、納得いかないというふうに声を上げる。

「なんでそうなるの!?」
「それにしても、ラティはすごいね。バハムートに続いてフェンリルも従えるなんて」
「え? いや、怪我を治したら懐かれたみたいです……」

 ああ、そうか。ラティのあの温かくて心地いい魔法を経験したら離れがたくなるのは、僕だけではなかったんだ。そうなると、これから治癒魔法をむやみやたらに使われると、少々面倒だな。

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