スパダリ部長に愛されてます

忘年会

12月のはじめ
金曜日は部の忘年会。
新宿の居酒屋さんに40人ほどが集まる。

部内では数少ない女性の社員さんで、
仲良くしている同じグループの横田さんが隣に座っている。
小柄で可愛らしい雰囲気の女性で、勤続10年を超え、ベテランの社員さんだ。
いつも頼もしく、聞けばなんでも教えてくれる。
乾杯の後、料理を取っていると、ふいに横田さんに話しかけられた。

「ねぇねぇ、古谷さん、彼氏できた?」
綺麗な顔を近づけてきて、小声で聞かれた。
「え」
「あ、ごめん、これって女性からでもセクハラよね。
なんか、古谷さん、元々きれいだけど、最近ますます美しさに磨きがかかった気がするの。」
「えぇーー、そんなことないですよ!」
横田さんは観察眼が鋭くて、尊敬してるけど、それがこちらにも向くとは思っていなかった。
いつになく真剣な顔で探りを入れられた。

「俺も思ってた。」
「きゃぁ!」
横田さんとは反対方向から、にょきっと近藤さんの顔が出てくる。
急に耳元で話されて、びっくりした。

「ほんとに、ないですよ。
私、フリーですから。」
2人の猛者に挟まれてしまった。
なんとなく、部内の皆さんもこちらの話を聞いてるような気もするし。
でも、嘘はついてないもの。
「ほんとうに、私はフリーなんですよ。」

すると近藤さんが心底嬉しそうに、
「じゃぁ、俺は?オレオレ!
古谷さんの彼氏に立候補しちゃう!」
どさくさに紛れて、私の手を握ろうとするが、
「こら!セクハラでしょ!」
横田さんがどさくさに紛れて、先に私の手を握る。
「きゃーーー、古谷さんの肌、すべすべ!!」
横田さんが私の手の甲に頬ずりせんばかりに顔を近づける。
「「えぇ!?!?横田さん??それもセクハラですっ」」
私と近藤さんの声が重なって、周囲が爆笑に包まれる。
なんとなく、近藤さんのセリフはうやむやになった。
ひゃーーー、良かった。
どこまで計算かわからないけど、横田さん、助かります。

正直、社内恋愛は懲り懲りだもの。

でも、その時浮かんだのは部長の顔だった。
心のどこかで、部長となら、とも思っていた。
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