Restart~あなたが好きだから~
氷室が、新天地である副社長室に姿を見せたのは、夕方だった。


「もうすっかり片付いてるな。」


「はい。オフィスは明日から問題なく稼働出来ます。」


「さすが七瀬だ。」


「ありがとうございます。」


「それじゃ、ちょっとデスクの整理をしてから、外出する。七瀬の誕生会をしてやれなくて申し訳ないが。」


「いえ。お気遣いいただきありがとうございます。今夜は友人に祝ってもらうことになってますので。」


「そうだったな。じゃ、また日を改めてな。」


そんな会話を交わして、デスクに戻った七瀬は、思い出して、今朝氷室からもらったプレゼントを開いてみる。中から出て来たのはUSBメモリ。おしゃれっぽいデザインのそれに、彼女の名前が入っていて、それにおいしそうなクッキ-を添えられていた。


秘書にとっては必需品であり、そのおしゃれで可愛らしいデザインは味気ないデスクを華やいだ雰囲気にしてくれて、七瀬は嬉しかったが


(誕プレがUSBじゃ、専務はやっぱり私を口説く気なんて、全然ないよね。さっきの話じゃないけど、少なくとも私たちの間に男女的惚れたはなしってことだ・・・。)


そんな思いが浮かんで来て、思わず笑ってしまった。


やがて、氷室は退社して行き、それを見送った七瀬も、定時を迎えるとオフィスを出た。


会社の最寄り駅から、自宅に向かうのとは反対方面の電車に乗り込んだ七瀬は、数駅先のターミナル駅に降り立った。この駅は実家に帰る際の乗り換え駅であるのだが、この日はその路線のホームに向かうことはなく、七瀬は改札を出た。そして、誰かを探すように、周囲をキョロキョロと見回していると


「七瀬。」


彼女を呼ぶ声がする。振り向いた七瀬は、その声の主を確認すると笑顔になる。それを見た声の主、柊木大和も


「お疲れ様。」


と言って、笑顔で七瀬の前に立つ。


「大和もお疲れ様。待たせちゃった?」


「いや、俺も今来たところだから。じゃ行こう。」


「うん。」


そう言い合って肩を並べて歩き出した2人は、駅に直結しているホテル1Fのレストランに入って行った。


「予約していた柊木です。」


「お待ちしておりました。ではお席にご案内いたします。」


自らの案内で、席に着いた2人に


「失礼ですが、当店のご利用は初めてでございますか?」


ウェイタ-が尋ねて来る。


「僕は以前、来たことがありますから、説明は大丈夫です。」


大和が答えると


「かしこまりました。それでは、ごゆっくりお食事をお楽しみ下さい。」


ウェイタ-は慇懃に一礼すると、立ち去って行った。
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