Restart~あなたが好きだから~
その電話をきっかけに、慌ただしい時間が始まった。時に


「はい、専務室です。」


などと言い間違いもしながら、七瀬はビジネスモードの自分を取り戻して行き、圭吾が会議から戻って来た頃には、一瞬ドキッと胸が跳ねたものの、それを見せることはなく


「お帰りなさい。」


と出迎えると、すぐに彼が不在中にあった出来事や連絡の内容を報告する。それは有能な秘書の姿そのものだった。


七瀬の簡潔明瞭な報告を、席に着くことなく聞いていた圭吾は


「第二営業部からの報告はすぐにでも聞かないとな。」


厳しい表情で七瀬に言う。


「はい。今日この後、お訪ねすることになっているビーエイト様に関することですから。」


「午後の外出までに時間が取れるか?」


「昼食の時間を削るしか・・・。」


「それで構わん、飯はここで食べればいい。」


「畏まりました。第二営業部の方には、そうなる可能性が高いから準備しておくように伝えてあります。」


「さすがだな。じゃ、すぐに呼んでくれ。」


「はい。」


一礼して、七瀬は下がる。


少しして、副社長室に姿を現したのは第二営業部の若林雅人主任と田中瑛太。七瀬にとってはかつての部下であり、また因縁浅からぬ2人だった。


七瀬の顔を見ても、若林は彼女のことなど眼中にもないような態度で


「お待ちしてました、どうぞ。」


という七瀬の言葉にもまるで反応せずに、さっさと副社長執務室に入って行く。そんな上司の態度に、困惑の表情を隠せないまま、田中は七瀬を見たが


(大丈夫、全然気にしてないから。)


という思いを込めて、ニコリと微笑んで見せると、彼はホッとしたような表情を浮かべて一礼すると、若林に続いて行った。


2人を見送った七瀬は、副社長の昼食を受け取りに社員食堂に向かい、すぐに引き返して、執務室をノックして、中に入る。


何しに入って来たと言わんばかりの視線を向けて来る若林を無視して


「お話し中に申し訳ありません。副社長、お食事をお持ちしました。」


と言って、トレイを圭吾のデスクに置いた。


「ありがとう。この後のスケジュールがたて込んでいてな、続きはスマンが食べながら聞かせてもらうぞ。」


「も、もちろん、結構でございます。」


副社長の断りに、若林は一転、恐縮でございますと言わんばかりの態度になる。


「失礼します。」


それを横目に、退出した七瀬は、自らの昼食を摂る為に再び社食に向かった。
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