Restart~あなたが好きだから~
すると、その親友の言葉にハッとしたように顔を上げた七瀬が


「そうかな?」


上目遣いで尋ねるように言うと


「うん。」


沙耶は力強く頷いて見せる。それを見て、嬉しそうにニコリと微笑んだ七瀬に


「可愛い笑顔・・・。」


思わず沙耶はポツンと呟いた。


「えっ?」


思わぬ親友の言葉に、聞き返す七瀬に


「ううん、なんでもない。さ、仕事に話はこれくらいにして、食べよう。」


そう答えて、沙耶も笑顔を浮かべた。


こうして親友に励まされて、少し気分を上げることが出来た七瀬は、翌日は、いつものように、バリバリと仕事をこなすと、自分の部屋に戻って来た。


カギを開け、中に入って、灯りを点ければ、大学進学を機に、1人暮らしを始めてから8年目となる、住み慣れた自室の光景が目に飛び込んで来る。夕食にと買って来たコンビニ弁当の入ったビニ-ル袋を、ポンとテーブルの上に置くと


(とりあえず、今週も終わった、か・・・。)


そんな思いと共に、七瀬はフッとため息をついた。


(とりあえず、ご飯食べよう。)


そう思って、部屋着に着替え、椅子に座り、TVを点けると、袋から弁当を取り出す。昨夜は結構沙耶と盛り上がってしまったので、飲み物はアルコ-ルではなくウーロン茶。目に入って来るバラエティ番組を見るとはなしに眺めながら、黙々と箸を動かす七瀬。


(明日、なにして過ごそうかな・・・。)


そんな思いがふと、頭をよぎる。といっても、別に今に限ったことではない。週末を迎える度に、そんなことを考えている。沙耶との約束がない限りは、結局ほぼ引きこもったまま、休日が過ぎて行くのが現実であった。


(プライベ-トの時間を沙耶以外の人と過ごしたのは、いつが最後だろう・・・?)


仕事で疲れた身体を休めたいのは確かだが、でもこのままでは・・・という危機感は七瀬にもある。でも根が無精なのだろう、3度の食事だって、今はデリバリ-なんて「便利」なものがある。溜まった1週間分の洗濯さえ済ませば、掃除なんか自分が気にならなきゃやらなくてもいい。誰が訪ねて来るわけでもないのだから。


そうこうしているうちに、弁当も食べ終わってしまい、今週録りためたドラマでも見るかとリモコンを手にしようとした時、傍らのスマホが震え出した。


初めて携帯電話というものを、自分の物として手にしたのは中学生の時だった。親から買い与えられたそれが、いつしか自分で契約するようになり、今のスマホが何台目に当たるのかはもう記憶が定かではないが、その間にそれなりの数の人と出会い、それなりの数の番号が登録されているはずだ。


だが今、そのスマホが鳴ることは滅多にない。築き上げてきたはずの人間関係は、いつの間にかほとんどが希薄になってしまい、SNSのメッセ-ジもほとんど入って来ることもなく、こちらから出すことも掛けることもない。掛かって来るとすれば、会社関係を別にすれば、沙耶とあとは・・・。


半ば相手を予期しながら、ディスプレイを見た七瀬は、そこに表示された名前を見ると、一瞬苦い表情を浮かべた後


「もしもし」


と電話に出た。
< 13 / 213 >

この作品をシェア

pagetop