Restart~あなたが好きだから~
「はい。」


振り返った七瀬に圭吾は


「正直、彼のことを目障りだと思っていたのは事実だが、今はやっぱり助かって欲しい。心の底から、そう思ってるよ。」


と彼女を真っすぐに見て言う。


「ありがとうございます。私も圭吾さんのその気持ち、よくわかりますから。」


執務室にも関わらず、最後に「圭吾さん」と呼んで、七瀬は部屋を後にした。扉の向こうに彼女の姿が消えるのを見送る圭吾の胸中は複雑だった。


(一昨日のお前の言葉を、今もそのまま受け取っていいんだな?もし俺がそう尋ねたら、あいつは何て答えたのだろう・・・?)


そう尋ねる勇気がなかった自分が情けなかった。


会社を出た七瀬は、そのまま大和の病院に向かった。病室に入ると、礼子が迎えてくれたが、その表情には疲労の色が濃い。恐らくほとんど眠れないのだろう。


「おばさん、少し休んでください。」


「私は大丈夫よ。七瀬ちゃんの方こそ、仕事帰りで疲れてるのに、寄ってもらって申し訳ないわね。」


「帰り道ですから、気にしないで下さい。それより私、しばらく居ますのから、お願いですから休んで下さい。このままじゃ、おばさんが倒れてしまいます。」


「そうね・・・じゃ悪いけど七瀬ちゃんのお言葉に甘えさせてもらうわ。でも、何かあったら、すぐに声を掛けてね。」


「はい。」


そう言って、礼子がソファに身を横たえたのを見届けた七瀬は、視線を大和に向ける。まるで何事もなかったかのように、昏々と眠り続ける彼の姿をしばらく見つめていたが、やがて1つの光景を思い出した彼女の口から


「ねぇ、いつまで寝てるつもりなの・・・?」


という言葉が漏れていた。


かつて、一緒に登校していた頃、礼子に頼まれ、朝が弱い大和をよく起こしに行った。彼の部屋に入り、呆れたようにこう言った七瀬が、次に彼に掛ける言葉は決まっていた。


「もういい加減に起きなよ。」


そして今、そのセリフが口をついて出た途端、七瀬の目から涙が溢れ出していた。
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