Restart~あなたが好きだから~
案内とお茶出しを終わり、執務室に戻った七瀬が、自分のデスクに着いた途端、内線電話が鳴り出す。急いで取ると、相手は社長秘書。何事かと緊張の面持ちになると


『社長が専務にお話があると、お呼びです。』


という声が聞こえて来る。専務の父であり、(株)プライムシステムズ代表取締役会長兼社長の氷室圭介は現在58歳。30歳で友人と2人で立ち上げた同社を国内有数のIT総合商社に成長させたやり手の経営者で、共同起業者であった友人が経営方針の違いを理由に去ってからは、現在の肩書が示すように、絶対的な存在として、社内に君臨している。


そんな社長のお呼びとあらば、実の息子であろうと、ただちに駆け付けなくてはならないのだが、あいにくと現在専務は来客中。城之内によれば、1時間は優に掛かるはずとのことで、その後のスケジュ-ルも立て込んでいて、どうしたらいいか、七瀬には判断はつきかねた。


困ったように、城之内に視線を送ると


「現在来客中だから、すぐに折り返しますと伝えて、一回切って。」


と指示されたので、七瀬はそのように社長秘書に伝えて、受話器を置いた。


「どうしましょう?」


動揺する七瀬に


「とりあえず、すぐに専務にメモを入れて、指示を仰いで下さい。」


城之内は、落ち着いた口調で言い


「わかりました。」


七瀬は頷いて、立ち上がった。応接室に向かい、失礼しますと中に入って、専務にメモを渡すと、一読した彼は、この後、すぐに伺うと伝えてくれと指示すると、来客との話を再開する。一礼して、下がって来た七瀬は、専務の慣れた様子に、こういうことは全然珍しくないのだと理解する。


「社長はせっかちだし、ひらめきで動くから、よくある話よ。でも理不尽なことを押し通す方じゃないから、落ち着いて対処すれば大丈夫。」


戻って、社長室に連絡を入れ終わった七瀬に、城之内はそう言うと笑顔を見せた。


やがて、城之内の見立て通りに、1時間ほどで来客対応が終わり、相手を見送ると


「社長に今から伺ってもいいか、確認してくれ。」


氷室が言って来るが


「10時半までなら、直接来ても大丈夫とのことでした。」


七瀬はすぐに答える。腕時計にチラリと目をやった氷室は


「わかった。じゃ、このまま行って来る。なにか資料が必要とか言ってなかったか?」


と確認する。


「特に伺ってません。」


七瀬の答えに1つ頷くと、そのまま足早に社長室に向かって行った。
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