成瀬課長はヒミツにしたい
 すると、後ろの方で小さい女の子の声が聞こえてくる。

「とうたん! リンゴ食べたい」

「リンゴ? えっと、どこかな……」

 低い男性の声も、遅れて聞こえて来た。


 ――保育園帰りかな? パパと買い物か。


 ぼんやりとそんな事を思いながら、くるくると店内を巡っていた真理子は、ぴたりと立ち止まった。


 目の前に立つのは、スーパーのカゴを手にしたスーツ姿の男性。

 横顔でもわかる、目を見張るほどのイケメンオーラ。


「な、成瀬課長……?!」

 裏返った真理子の声に、相手はぴくりと肩を動かすと、静かに緊張した顔を向ける。


 ――まさか、こんな所で出会うなんて……。


 真理子はドキドキし出す心臓を押さえるように、静かに会釈しようとして、再びぴたりと止まった。
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