成瀬課長はヒミツにしたい
 すると社長が椅子をガタっと鳴らしながら大袈裟にのけ反り、真理子はビクッと肩を揺らす。

「あっ、好きな人いるんだぁ。そっかぁ。はぁ……」

 社長は、あからさまにがっかりした顔を見せると、テーブルに突っ伏した。

 真理子はその様子にぎょっとして、慌てて顔の前で手を振る。


「いるって言うか、いたんです! でも、つい最近、失恋しちゃって……」

「えっ? そうなの?!」

 真理子の言葉が言い終わるか終わらない内に、勢いよく顔を上げた社長が、食い気味に声を出す。

「はい……結構、その、落ち込んでます」


 社長は「うーん」とうなると、顎に手を当てて何か考え込んでいる。

「真理子ちゃんが弱ってるところに、付け入るのは悪いんだけど……」

 しばらくして社長は上目づかいに真理子を見つめた。

 真理子は首を傾げる。


「ねぇ。真理子ちゃん。俺たちと家族ごっこしない?」

 まるで悪戯をする子供のように、にやりと笑った社長の瞳は、透き通っていてきれいだった。
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