成瀬課長はヒミツにしたい
「あの人、いっつもパソコンばっか見てたからねぇ。でもあたしは、そういうのわかんないのさぁ。今だって、どこほっつき歩いてるんだか、さーっぱり」

 田中さんは大きくため息をつくと、仁王立ちになって腰に手を当てる。


 ――今、橋本部長が本社にいることを、誰も知らないんだ……。


 その時、田中さんの後ろから、つぶやくような小さい声が漏れ聞こえた。


「あぁ? なんだって?」

 田中さんが、後ろを振り返る。

 声を出したのは、手にカップを持っている若い男性だろうか?

 真理子は田中さんの後ろを覗き込んだ。


 すると、前髪で顔がほぼ見えない色白の男性が、うつむきながら何かを田中さんに言っている。

「あぁ? なに? ユウエスビイっていうの? それ、持ってたんだって! 黒くて小っちゃいやつ」

 田中さんは、男性が言ったことを伝言するように、首を傾けながらこちらを見た。

 その言葉を聞いた途端、思わず前のめりになった真理子は、成瀬と顔を見合わせる。
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