成瀬課長はヒミツにしたい
 成瀬は外した眼鏡を机に置くと、ゆっくりと真理子に歩み寄った。

 そして真理子の左手を取り、そっと自分の手のひらにのせる。


 ――これはもう運命だ。子供がいたって構わない。私の運命の王子様は、ここにいたんだ……。


 真理子の頭の中では、もうすでにウエディングベルが大音量で鳴り響いていた。

 真理子は、はねる心臓を抑えつけるように、そっと指に力を入れようとした。


 その途端、成瀬はぐっと手に力を込め、真理子の身体を引き寄せる。

 真理子はされるがまま身をゆだね、鼻先すれすれに成瀬の顔が近づいた。

 もう今にも成瀬の唇は、真理子の唇を捕らえそうだ。


 ――あぁ、神様……。


 真理子は甘美な空気に酔いしれながら、思わず目を閉じた。


 その瞬間、成瀬の低い声が耳元をかすめる。

「これで契約成立だ」
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