成瀬課長はヒミツにしたい
「え……?」

 成瀬は、ぱっと手を離したかと思うと、もう真理子に背を向けている。

「契……約……?」

 はたと目を開けた真理子は、何度も瞬きをしながら成瀬の様子を目で追った。


 成瀬は、バックに流した髪をくしゃくしゃと手で崩している。

 そして、さらりと目にかかる前髪をかき上げながら、あははと声を上げて笑い出した。


 真理子は訳が分からず、その場に立ち尽くす。

 はっきりしている事と言えば、さっきまでの甘い空気感はみじんも感じないという事だ。


「だまし討ちみたいにして、悪かったな。まぁ、座れ」

 相変わらず笑ったままの成瀬は、まるで人が変わったかのような口ぶりでそう言うと、椅子に座りながら真理子を見上げた。

 真理子は力が抜けたように、すとんと腰を下ろす。


「お前の事は、前々から目をつけてたんだ」

「目……? ど、どういう事ですか……?!」

「俺を誰だと思ってる? 人事のプロだぞ」

 成瀬は得意げに顔を上に向ける。
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