成瀬課長はヒミツにしたい
「とうたんが、まりこちゃんのことをすきだって、しってたんだ。だから、とうたんにいじわるしたの……」

「いじわる?」

 明彦は驚いて乃菜の前に座ると、下から乃菜の顔を覗き込む。

 乃菜は今にも泣きだしそうな顔で、ぎゅっと唇を噛みしめていた。


「とうたんに、まりこちゃんはあげないよって、いったの……。でも、とうたんがこなくなって、まりこちゃん、わらわなくなった。のなが、あんなこといったから。のなは、わるいこなんだ……」

 乃菜はそこまで言うと、「わぁっ」と声を出して泣き出す。

 こんな小さな身体に、大人の事情で色々な事を抱えさせてしまったと、明彦は胸がグッと苦しくなった。


 明彦は乃菜を抱きしめると、身体を揺らしながら背中を何度も優しく撫でる。

「乃菜は悪い子なんかじゃないよ。だってママが欲しいって思うのは、当たり前のことだもん。パパだってそうなんだよ」

 明彦は身体を起こすと、乃菜の顔を優しく見つめた。

「パパも?」

 乃菜は、ひくひくと身体を震わせながら、明彦を見上げている。
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