成瀬課長はヒミツにしたい
「やっぱり、このままじゃダメだと思うんです」

 乃菜の親子遠足の日、真理子は成瀬の部屋でソファに腰かけながら、隣でコーヒーを飲む成瀬を見上げた。

「このまま決断したら、結果がどちらになったとしても、しこりが残ります。専務の一件以降、社長の下でまとまっていた、勢いのあるサワイには戻れない。もう一度、あの“全員野球”の言葉を、みんなに思い出して欲しいんです……」

 真理子は成瀬の膝に手をかけると、じっとその黒い瞳を見つめた。

 成瀬はカップをローテーブルに置くと、そっと真理子の肩に手をかけ引き寄せる。

 真理子は成瀬の肩に頭をもたれかけさせると、じっと成瀬の鼓動に耳を澄ましていた。

 そうしているだけで、不思議と心が穏やかになった。


「でも、賛成派も反対派もここまで(こじ)れた状況で、どうやってまとめるんだ……?」

「それは……まだ、わかりません」
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