成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子は、開いたスクラップブックの一部を指さす。

「サワイの場合だと、創業は先代が一人で事業を始めた年になるので、はっきりしてないっていうのもあると思います。でも唯一この記事に記載があって」

 成瀬と小宮山が覗き込んだ目線の先には、先代の創業当時の写真と共に、短い紹介文が書いてあった。


 “子供たちの笑顔のために。たった一人で事業を始める”


 成瀬は記事を手に取ると、静かに目で追っている。


「この記事のことは、聞いたことがない。たぶん明彦も知らないだろうな……。それで創業記念のイベントをするって言うのか?」

「はい。そしてイベントの対象は、社員とその家族です」

「お客様ではなく?」

 真理子は力強くうなずいた。


「もう一度みんなに知ってもらうんです。サワイの歴史を……」

 成瀬の瞳がかすかに揺れた。

「“きっかけ”を作るってわけか」

「サワイの未来を考える“きっかけ”です」

 真理子の言葉に、成瀬は口元を引き上げる。
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