成瀬課長はヒミツにしたい
「そんなっ……。ものすごーく、仕事がやりづらくなるじゃないですか!」

 真理子は両手をグーにして、成瀬の胸元に詰め寄った。

 成瀬は真理子の手を受け止めると、そのまま抱きしめるように肩をぐっと引き寄せる。


「だって、俺が真理子にゾッコンなのは、事実だろ?」

 成瀬はそう耳元で甘くささやくと、そのままカプッと真理子の耳たぶを唇で挟んだ。

「ひゃっ……」

 そんな事をされたら、ここが歩道の真ん中とはいえ、思わず腰が砕けそうだ。


 真っ赤になった耳に手を当てながら、ぽーっと頬をピンクに染めた真理子の顔を見て、成瀬がにんまりと口元を引き上げた。

「なーんてな」

 成瀬は悪戯っぽく言いながら真理子の鼻をむぎゅっとつまむと、楽しそうに肩を揺らしながら足を踏み出す。


 またしても成瀬にしてやられた。

「もうっ……いじわる王子っ!」

 真理子はパンパンに膨らませた頬でそう叫ぶと、成瀬の背中を追いかけて走り出した。
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