彼女はアンフレンドリーを演じている




「“無愛想の冴木”って美琴のこと?」
「え?」
「前に食堂で、たまたま若い社員がそう話してんの聞こえてきた」
「……多分そう」
「お前、そんなんだっけ?」



 納得していない様子の遼は、無愛想という言葉と自分の知る美琴が、合致していなかった。

 入社して同じ部署に配属された時の美琴は、決して無愛想ではなく、むしろ明るく笑顔も多い女性社員だったから。

 だから、異動した先でそんなふうに言われているなんて、と未だに信じられずにいる遼。


 その時、今まで淡々と話していた美琴は、昔の自分を思い出したのか自然と表情が緩んだ。



「あの頃は何もかも楽しかっただけ、仕事も、恋愛も」
「ふーん、じゃあ今は?」
「……。」



 遠慮することなく次々と出てくる遼の質問を、徐々に拷問のように感じてきた美琴。

 でもそれは、楽しかったあの頃を思い出させるほどに、今も気兼ねなく遼とは会話ができている証拠だとも思った。



「ふふ、遼くん顔怖っ」
「おい、話逸らしたな?」
「私にだって色々事情があんのよ、言わないけどね!」
「んだよ、心配して損したわ」



 悔しそうに舌打ちまで追加したが、久々に同期の美琴に会えて、遼も自然と笑顔が溢れていた。

 変な陰口を耳にしてから、ずっと気がかりではあった。
 だけど、一応美琴は元気そうだし笑顔も見れたから、まあ大丈夫だろうと安心する。


 その時、肩から下げていた美琴のスマホショルダーがブルっと震え、メッセージの受信を知らせた。
 取り出す仕草の美琴に向かって、遼は。



「彼氏か?」
「いないし、ていうかいらないし」
「あーはいはい、浮いた話全然ねーじゃん俺たち」
「遼くんはそっち積極的でしょ? 私はほんとにいらないから」



 頻繁に合コンに行っては、程よく遊んだエピソードを以前たっぷりと聞かされていた美琴が、一緒にしないでと睨んでくる。

 そして受信したメッセージを開くと、ある人物から毎度おなじみの、一言命令文。



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