彼女はアンフレンドリーを演じている




 些細なことで喧嘩をして、会議室で初めて触れた唇を、今はもう何度も重ねていて。
 互いの肌を知って求め合うことに、躊躇いも我慢もいらない状況を迎えている。


 しかし、蒼太を好きだと気付いてからの期間より、ただの同期として接していた期間の方が圧倒的に長いから。

 色気を放出する蒼太を前に、美琴の心臓は破裂寸前だった。



「美琴ちゃん、緊張してる?」
「あ、当たり前……」
「そっか、俺もだよ」
「……うそ、そうは見えない」



 その緊張をほぐそうとしたのか、いつもの微笑みを浮かべて会話を始める蒼太。

 ただ、緊張しているようには絶対に見えず、むしろ手慣れた感すら漂っていたから。
 女性経験の豊富さを予感させる蒼太を恨むように、ジトっと睨んだ。



「本当だよ、すっごく緊張してる、けど」
「……けど?」
「同期で飲み友だった俺たちが、今は愛し合ってることの方が嬉しくて」
「っ……!」
「だから、早く美琴ちゃんを知りたくて仕方ない」



 そう言って、微笑んでいた表情がスッと雄の瞳になる蒼太に、心臓を鷲掴みされた美琴は何も言い返せなかった。

 代わりに湧き出てくる愛情と感謝の気持ちが、ガチガチの緊張を徐々にほぐしていく。


 誰かを愛し、また同じように愛されることが、こんなにも心が温かく安らぐなんて。
 忘れていた感情が呼び覚まされて、ごく自然に美琴の両腕が蒼太の背中に回って抱きついた。



「美琴ちゃん?」
「なんでそう、蒼太くんて……」
「?」



 拗らせて臆病で面倒な自分に、真っ直ぐな気持ちをぶつけてきてくれるんだろう。

 そのせいで、どんな大きな不安も些細な問題も、簡単に愛しさに変わってしまう不思議な感覚は。
 長らく恋愛をしていなかった美琴が初めて味わうもので、その身を全て委ねたくなるほどだった。



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