彼女はアンフレンドリーを演じている




「香上さん、先ほどK事業所の件の議事録を主任に提出したので無事終了です」
「ありがとう、お疲れ様でした」
「こちらこそ、香上さんのお陰でスムーズに進められたので」
「下田さんの実力だよ、俺は補佐だから」



 あれ以来、蒼太と下田の関係もすっかり良好で、円滑に業務をこなしていた。
 そして、それは蒼太一人だけではなく――。



「今初めて冴木さんと一緒にお仕事させていただいてるんですけど、驚きました」
「え?」
「的確すぎて仕事も早くて、冴木さんてやっぱりすごい人ですね」



 一つの仕事を通して、美琴と下田も良好な関係を築いているらしく、尊敬の言葉を漏らす。
 それに微笑んで応えた蒼太は、恋人の活躍と好評判を心から喜んでいた。



「そういえば冴木さん、今日午後休とってるんですか?」
「うん、マンションの引き渡しに立ち会いが必要で」



 12月は住んでいた一人暮らしのマンション更新月だと言っていた美琴は、ついに引っ越しを決意したようで。
 そしてもちろん、新しい家となるのは蒼太の住んでいる、あの高層マンションの8階。


 だから今日は定時で仕事を終えた蒼太が家に帰ると、美琴が出迎えてくれる上に初めてのイブを一緒に過ごす事が約束されている。


 そう思うとにやけが止まらなくなるので、軽い咳払いと共に気持ちを立て直した。



「小山、あと5分で俺は退勤するからな」
「香上さん〜冴木さんと俺、どっちが大事なんですか〜」
「冴木さんに決まってるでしょ!」



 よっぽどイブの残業が嫌なのか、遂に禁断の二択を口にした小山をすかさず下田が鋭いツッコミを入れる。
 ここで会話は終了かと思いきや、下田のセリフには続きがあって。



「私も手伝ってあげるから」
「え、下田さん……マジすか?」
「何よ、イブの夜に予定ない事笑った?」
「笑ってません! 笑ってません!」



 まさか下田が残業に付き合ってくれるとは思ってもみなかった小山は、驚きながらも頭を何度も下げて礼を述べた。



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