彼女はアンフレンドリーを演じている




「ありがとうございます! 下田さん女神!」
「ふざけてんの?」
「……ごめんなさい」
「だからもう香上さんに絡まないでよ?」
「はい! 香上さんお疲れ様でしたー!」



 絶対的な助っ人を手に入れた小山は、蒼太に向かって手を振りあっさりと諦める。

 わかりやすい後輩にため息をつきつつも、席を立って帰り支度を始めた蒼太は、下田に対しては申し訳なさそうに礼を伝えた。



「下田さん、本当にありがとう」
「いえ、いつも香上さんにお世話になってますし、それに冴木さんにも」



 そう言って穏やかな笑みを浮かべた下田は、美琴と蒼太に少しでも関わった事で変わる事が出来た自分を忘れていない。

 その恩返しもあって、せっかくのイブだけど後輩の手助けをして過ごすのも悪くないなと思えるようになった。



「だから、早く帰ってあげて下さいねっ」
「ああ、じゃあお疲れ様!」
「お疲れ様でーす!」



 足早に部署を飛び出して行った蒼太を見送った二人は、一息つくと互いの顔を見合わせる。

 そして――。



「下田さん、俺も彼女欲しくなってきました」
「仕事出来るようになってから言ってね」
「……意地悪言わないでくださいよー!」



 イブに仕事が終わらなくて泣きべそかいている内は、出来るものも出来ないと説明したかった下田だが。
 たとえ仕事が出来るようになっても、心から好きだと思う人に出会わなければ恋人なんて出来ないことを、自分がよく知っていた。



「でもまあ多分、小山は直ぐに出来るかもね」
「へ?」
「あんた、素直だから」



 自分と違って小山なら、裏表もなく真っ直ぐな気持ちを持ったまま好きな人を思い続けられそう。
 そんな勝手なイメージを抱いてニコリと微笑んだ下田は、自分のデスクに戻っていく。

 その後ろ姿を黙って眺めていた小山も、実は同じような事を考えていて。



「(下田さんも直ぐに出来ますよ、イブの夜に残業付き合ってくれる優しさを持ってるから……)」
「小山ー! 早く作業データ送って!」
「は、はい!」



 ただ、本人に直接そう伝えられるのは仕事がきちんと出来るようになってから、と勝手に決めた小山は、その言葉を心の中に留めておくことにした。



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