彼女はアンフレンドリーを演じている




「そういう遼こそ、相変わらず美琴ちゃんと親しいんだな」
「んだよ、妬いてんの?」
「違うけど、今仲良く話してたから」
「美琴が異動して以来だよ会話したの。あいつもう煙草やめたらしいし、フロアも違うから会う機会全然ねぇ」
「ふーん……下心もない?」



 爽やかで人気者の蒼太は、少し表情に影を落としながら、静かに冷ややかな瞳で遼を見つめた。
 返答次第では、今後の接し方も考えなくてはいけないと考えながら。

 しかし、動揺や焦りの色は全く見えず、鼻で笑いながら蒼太の背中を思い切り叩く。



「ねーよ! ばっかだなー!」
「……いってぇ」
「俺はもっとお色気ダダ漏れで豊満な胸の女が……あ、そうだ」



 聞かれてもいない好きな女性のタイプを教えたところで、何か重要な事を思い出した遼は、蒼太の耳元で囁いた。



「美琴、さっき男から誘いのメッセージもらってたんだよ」
「……は?」
「今夜会うらしいぞ、あいつ恋愛してないって言ってたから俺はセフレと見てる」
「そんな子じゃねーよ、美琴ちゃんは」
「相手、どんな男だろうな?」



 美琴の事は女性として興味がないのに、その男には少し興味が湧いている遼が、怪しい笑みを浮かべて楽しんでいる様子。

 今夜、美琴は男と会う。その情報に蒼太は――。



「……それは、ただの飲み友だよ多分」



 そう答えながらも、内心余裕たっぷりで優越感に浸っており。
 程なくして蒼太の上着ポケット内のスマホが、メッセージを受信する。

 まだ見ぬその文面が、画面にふわりと映り。



『どうせ暇人です』



 そのメッセージを実際に確認できたのは、もう少し先の、遼と別れた直後だった。



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