彼女はアンフレンドリーを演じている




 キリッとした目とバランスの取れた鼻筋、そして薄い唇と白い肌が透き通るように美しく、一見モテそうな彼女なのだが。



「何せ愛嬌も愛想もないから、社内で冴木さんを狙う男はいないでしょ」
「冴木さんって今入社五年目? 去年うちの部署に異動してからもう一年経ったんだ……」
「最初は下心丸見えの男達が集まってたけど本性知って遠ざかり……今じゃ同期の香上さんくらいだよ絡むの」
「え〜優しい〜、やっぱ社内で一番素敵でイイ男!」



 仕事の手を止めて、キャッキャと会話する女性社員達の存在を、随分前から知ってはいた美琴。

 しかし、どんな陰口を叩かれようとも仕事で迷惑はかけていないのだからと、全く気にする事なく小山へ淡々と説明を続ける。



「この数字で取引先を納得させるのが営業の仕事です。先方の言うことばかり聞いていたらこちらが赤字になりますから」
「そ、それはそうなんですけど、でも香上さんが……」



 小山の口から再び登場した、香上という名前。
 それは美琴も良く知る名前だったが、こうも頻繁に聞かされてしまうと言わざるを得ない。



「そもそも、どうして私と小山くんの業務に香上くんが口を出してくるの?」
「えーと……教育担当だから?」
「一年間の新人期間は春に終了しました、もう夏です」
「……す、すみません……」



 決して仕事ができない小山ではなかったが、入社二年目を迎えてもどこか自信の無さが人相に滲み出ている。

 そんな彼を、新人期間が明けた今でも何かと気にかけている先輩心は理解しているつもりでいた美琴。
 ただ、そろそろ小山にも一人で仕事をこなす経験を増やしていかないと、と考える。



「(蒼太(そうた)くん、過保護すぎ……)」



 小山の先輩で教育担当を務め、美琴の同期でもある香上(かがみ)蒼太(そうた)に対し、脳内で愚痴をこぼしてしまった。


 美琴の言葉に何も言い返せなくなった小山は、シュンと肩を落として俯くしかなく。
 それはまるで、美琴が小山を言い負かしたような光景だった。



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