彼女はアンフレンドリーを演じている




 時を同じくして――。

 休憩スペースの奥にある自販機前に佇んでいた蒼太は、一時間の残業を乗り切るために缶コーヒーのブラックを二つ買う。

 一つは自分、そしてもう一つは自業自得のミスを修正するため、二時間の残業を予定している後輩の小山に渡すため。


 月曜日から残業なんて怠すぎて、早く帰りてぇな〜なんて思いながら、部署に戻ろうと休憩スペースを通った時。
 その会話は、聞こえてきた。



「冴木さん、マジで一人で残業してたよ」
「畑野〜悪い奴だなぁ」
「あたし悪くないもーん」



 畑野を含む数人の男女が円卓を囲って集まり、何やら美琴のことを話している。

 蒼太の存在はまだ気付かれておらず、通り過ぎようとしつつも耳を傾けた。



「だって冴木さんからは一日分破棄の指示しかされてなかったんだろ?」
「うん、あたしがよく見ないで一ヶ月分シュレッダーしちゃった」
「ほらやっぱり、畑野のミスじゃん」
「違うよ、破棄する作業を新入社員のあたしにさせた冴木さんのミスだから」



 どうやら畑野は自分のミスに気付いていてその自覚もあったのに、それでも美琴の指示のせいにした。

 入社してまだ間もない畑野ではあるが、事の経緯を隠し先輩に全てを擦り付けるという行為はもう、人としてどうかしている。



「でも冴木さん仕事早いし、一人で修正してた方が気楽でしょ」
「確かに、畑野がいても足手まといだしな」



 美琴への詫びの心は持ち合わせていない畑野と、そんな畑野と面白おかしく会話する仲間たち。

 それを冷ややかな目で確認しながら休憩スペースを後にした蒼太は。
 力いっぱいに缶コーヒーを握り締めて、自分の部署へと戻って行くが。



「新入社員の、畑野さん……か」



 煌びやかなネイルと派手なメイクが印象的だった畑野の顔だけは、脳裏にしっかりと刻まれた。



< 28 / 131 >

この作品をシェア

pagetop