彼女はアンフレンドリーを演じている
時刻はもうすぐ20時を過ぎようとしていて、どんなに日照時間の長い夏とは言え、流石に外は真っ暗になっていた。
もちろん部署内は静まり返り、残業しているのは美琴ただ一人。
普段から人との距離をとる美琴にとっては、たとえ一人で過ごしていても特別寂しいなんて感情は抱かなかった。
ただ、何だか今夜はいつもと違う。
「…………」
孤独な残業時間と、ミスによって生まれた仕事。
“その圧、正直すっごく苦痛なんですよね”
“普段から見下されてるようで、仕事もやりづらかったです”
そして後輩から放たれた、正直過ぎるこの言葉。
すると、今までずっと作業し続けていた指がゆっくりと止まって、パソコン画面ではなくキーボードへと視線を落とした美琴。
以前の部署で、先輩の長屋に裏切られて以降。
もうこんな息苦しい思いはしたくないと決心して、異動を機に周りの人と必要以上に関わることを拒んだ。
ただ、それはあくまで仕事に影響の出ない範囲と決めていたし、実際に今まで業務には支障なくやってこれたのに。
「潮時なのかな……」
新入社員の畑野が先輩である自分のせいで仕事がやりづらいなんて、環境としては最悪だろう。
せっかくの新しい可能性を秘めた貴重な人材を、過去の社内恋愛で人間性を拗らせてしまった自分が潰して良いわけがない。
そう考えた美琴の脳裏には、長屋に裏切られた時と同じ思考に陥り“退職”の二文字が浮かんでいた。
「(あの時、蒼太くんが異動を提案してくれなかったら……)」
きっと、いや確実に美琴は退職を選んでいて、今の部署で働くことも、小山や畑野に出会うことも。
そして、蒼太と飲み仲間になることも、決してなかったのだ。
つい先週、今の仕事は好きだから、退職はもう考えてないと蒼太に話したばかりなのに。