彼女はアンフレンドリーを演じている
次第に高鳴る鼓動の存在に気付いたが、これは多分弱った心が回復していく証であって、決して蒼太に対する特別な感情ではない、と強く言い聞かせた。
「……蒼太くん」
「ん?」
気持ちを落ち着かせて、再度蒼太の方に体を向けた美琴は、頬を赤く染めて少し照れながらも、素直に打ち明ける。
「こうなる覚悟もしていたし、同情も味方もいらないって思ってた」
「……うん」
「なのにいざ経験してみると、思ってた以上に虚しくて、今……」
退職を考えていた、と言いかけた美琴だったが、以前長屋に裏切られてどん底にいた時も、退職を考えていた自分の前に蒼太が現れて。
異動を提案してくれた事を、ふと思い出した。
美琴がどうにもできない辛さを味わい、追い詰められているタイミングで、救いの手を差し伸べ続けてくれている蒼太。
その事実に、感謝の気持ちが溢れ出た。
「……いつもありがとう、蒼太くん」
控えめにはにかんでみせた美琴の貴重な姿に、さすがの蒼太も心を奪われたように見惚れてしまうが。
想いはまだ知られてはいけないと、咳払いで誤魔化し直ぐにいつもの態度で応えた。
「っどういたしまして、じゃあ俺ファイル読んでくから美琴ちゃん入力よろしく!」
「あ、うん……ごめん、残業付き合わせて」
「いいよ、いつも酒付き合ってもらってるから」
そうして作業の手伝いを始めた蒼太は、ファイルを見ては美琴を見て、またファイルを見ていく。
誰もいないとはいえ、社内で初めて過ごす二人だけの時間は、居酒屋の時とは違う、少しの緊張感と心地良さがあった。
蒼太はそれを、何かが始まるキッカケにならないかと願い続けていたのだが。
一方の美琴はというと――。
「(……なんで、おさまらないの……)」
鳴り出していた鼓動は徐々におさまっていくと思っていたのに、まるで隣に座り作業を手伝う蒼太を意識するような動きをずっと続けている。
ただ、この感覚を以前にも味わった事があった美琴は、危機感を覚えてきたのち。
今週の金曜日、遼にお願いされていた合コンに行くことを決意した。