彼女はアンフレンドリーを演じている




「……私に文句があるなら、ハッキリ言えば?」
「自分の胸に聞けよ……」



 ハッキリ言えるわけがない。
 嫉妬しているということは、美琴に好意があると知られてしまう蒼太。

 自分で話題を振っておいて、美琴がここまで遼との交際を隠したがるのは、やはり社内恋愛しないと宣言していた負い目だろう。

 それか、情報を漏らされたら困るという、自分への信頼度がまだまだ低いせいなのか。


 そんなふうに考えていた蒼太は、自分が惨めになっていくのが嫌でもわかって。
 無言のまま席から立ち上がり、会議室を出ようとドアに向かった時。

 美琴はその片腕を咄嗟に掴んで、逃げられないようにする。



「ちょっと、話終わってない!」
「っ……!?」



 すると、腕に伝わる微かな熱に連動して、不意に記憶が呼び起こされた蒼太。




 飲み会のあったあの日、二軒目に向かって歩いていた間。
 腕に絡みつく下田の手に、蒼太の手のひらが優しく重なって。

 気持ちに応えてくれた、と期待した下田は笑顔を浮かべたが、それは一瞬にして消え失せた。


 なぜなら、下田の手を自分の腕からゆっくり外した蒼太は、何も言わずに背を向けると。
 やはり帰宅することを決めて、その場を立ち去ったから――。




「……最近、蒼太くんに避けられてるのはわかってたけど、あの日言い合いになったのはお互い様だよね!?」
「……」



 会議室ドアと蒼太の間に自分の体を挟み入れ、退出することを断固許さない姿勢の美琴。

 一方的に好き勝手言われっぱなしだったせいで、珍しく冷静さを失っている美琴の事を、蒼太も目を見ればすぐにわかった。



「私も強く言ったのは悪かったけど……」



 美琴への想いを断ち切るために、一晩くらい下田と遊んでやっても良かった。



「蒼太くんもピアスだなんだって、ワケわかんないことで突っかかってきて……」



 しかし、そんなことをしても今更他の女性に目移りするほど、美琴の想いは軽いものじゃないから。

 一晩の過ちは、結果的に同じ部署で後輩の下田を傷つけるだけに終わるのが、簡単に想像できた。



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