彼女はアンフレンドリーを演じている




 そしてあんなに軽蔑していた長屋と、同じような事を一瞬でもしようと思った自分にも幻滅する。



「勝手に怒って、勝手に避けて、今また勝手に逃げようとしてるよ蒼太くん」



 過去の恋愛で傷ついた美琴を知っているからこそ、安易に踏み込むことをせず、傍にいながらも待つことを選んだのに。

 肝心の美琴が何を考えているのか不明瞭で、自分の知らないところで男と会っていたのが許せなかった蒼太。



「もう関わりたくないなら、そうハッキリ言ってくれた方が……」



 だからもう、これ以上関わっていても何も進展しないというなら――。


 数日間ずっと溜めていた不満を吐き出す美琴を、黙って聞いていた蒼太がついに。
 美琴の前で真面目な男を演じることを、やめると決めた。





「その方が、よっぽど良心的……っ!?」



 蒼太の伸ばした手は美琴の顎を持ち上げ、まだまだ続けられるであろう言葉の出どころを。
 自らの唇で塞いでやった。


 味わったことのない蒼太とのゼロ距離はあまりに突然やってきて、思わず美琴の息が止まる。

 しんと静まり返った会議室内だけが、まるで魔法か何かで一時停止されたようだった。



「……っ」



 唇を離した一瞬、呆然とする美琴の顔が徐々に状況を理解し、紅潮していく様を確認した。

 それが想像以上に欲情を駆り立てられて、ゾクリとした感覚が肌を伝った蒼太は。
 理性を保つことよりも、己の感情を優先する。



「……な、に……すんの」
「うるさい……」
「は? ちょっ……ん!?」



 今度は美琴の頬を両手で包み込み、有無を言わさず再び唇を重ねた。

 先程よりも激しく、やり場のない気持ちを押し付けるよう強引に美琴の唇を割って、口内へ侵入していく。



「っ! っ……待っ、お願……」



 容赦なく攻め立てられ、やがて捕らえられた舌が絡まり合い、身体中の神経が刺激されていくのがわかった美琴。



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