彼女はアンフレンドリーを演じている




 ホテルというワードだけで、蒼太との間に何か過ちが起きてしまう可能性を深読みした自分が、とてつもなく恥ずかしい。



「へぇ、まさか襲われるとか思った?」
「っっな、ちがっ……」
「それさ、俺が美琴ちゃんの中で男だと認識されてるってことでいい?」
「っ……」
「まあ前科あるし、警戒するよな普通」



 感情任せで行動した会議室でのキスが、どうやら嫌われたというより男として意識するキッカケになった。
 それが判明して、全てがマイナスに働いた訳ではないらしいと、蒼太は喜びを噛み締める。



「でも今後は、美琴ちゃんが隙を見せたら」
「え……」
「俺はいつでも手出しすること、覚えてて」
「〜〜っ!」



 そう言って無防備に甘い表情をする蒼太を、止める術が見当たらない。

 このままではペースに乗せられ、気持ちの整理もつかないまま情に流されてしまうことを恐れた美琴は。
 急いで財布を取り出すと、三千円をカウンターに叩きつけた。



「わわ私買い物の後にチェックインするから!」
「え? ちょ……」
「食べ終わったら先にホテル行ってて!」



 乾杯のビールはまだ半分も飲んでなくて、注文していたたこわさもまだ届いていないのに。

 逃げるように遠ざかる美琴の、怒っているのか恥ずかしがっているのかわからない背中が、慌てて店を出て行った。


 それを唖然としながら見つめる蒼太は、一人取り残されたことで少し酔いが覚め、大きなため息と共に項垂れる。



「……いきなり、攻めすぎた……」



 だけど、どれだけ本気に想っているのか、どれだけ待たされているのかは、多分美琴に伝わったはず。

 すると、微かに赤らんだ頬を携えて複雑な感情を抱く蒼太の目の前に、ようやくたこわさが到着した。



「…………」



 しかし注文した張本人の美琴は、すでにホテル近辺の店で宿泊に必要なものを調達中。

 なのでこのたこわさは、仕方なく蒼太が一人寂しく食べるしかない結果となった。



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