彼女はアンフレンドリーを演じている
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暗い表情をする美琴は今、駅近くの整形外科に来ていて、その待合室のソファに一人座っている。
傍らには細かな擦り傷のついたスーツケースを置き、蒼太の診察が終わるのをじっと待っていた。
「…………。」
会社には既に電話連絡を入れ事情を説明し、課長に半休の許可を貰ったので会社に寄る予定はなくなったのだが。
病院に来るほどではないと頑なだった蒼太を、無理やりここまで連れてきた美琴。
その診断結果によっては、このまま自宅に帰るわけにはいかないと考えていた。
やがて診察室から出てきた蒼太の姿が見え、美琴が立ち上がって出迎える。
問題の左手首には、やはり包帯が巻かれていた。
「蒼太くん、どうだった?」
「骨には異常無し、靭帯伸びただけの全治10日の捻挫」
「そう……でも捻挫も放っておくと」
「よくないんだろ? わかってるよ」
「っ…………」
昨日、階段から落ちた小山の診断が捻挫だったという話の時に、美琴が言っていたこと。
それを覚えていた蒼太は、微笑みながら隣に腰掛ける。
「ごめんなさい、私のせいで」
「謝られると逆に辛いんだけど」
「え? だって……」
「この程度のことで捻挫とか、男のくせに情けないだろ」
「そんなこと……!」
「はぁ〜、ジムの回数増やそうかな」
怪我をしたのはあくまで自分の力が及ばなかっただけであり、美琴には関係ないと言い張る蒼太は、天井を見つめながら自分の非力さを悔やんでいた。
しかし、気遣ってくれているのは伝わるけれど、それでは美琴の気持ちが収まらない。
痛々しい包帯姿の左手が、元通りになるまでは。
「さっき、会社に連絡したよ」
「ありがとう」
「蒼太くんも私も、半休許可もらったから」
「え?」
会計が終わったらこのまま会社に向かうつもりだった蒼太は、驚いた表情を浮かべている。
しかし、美琴の中ではもう決めていた。
「今の蒼太くんは、会計もスーツケース持つのも難しいでしょ?」
「え、まあ、いや大丈」
「だから今日は私が、蒼太くんの左手になる」
「……は?」